飛行機に雷が落ちた際の安全性や、飛行機の雷対策についての詳細を現役機長の空おじが、ご紹介します。
航空業界は及びパイロットは、様々な気象状態に対して、高度な技術と豊富な経験を活かし、乗客と乗員の安全を確保するための対策を講じています。
今回はどのように飛行機は雷の中安全を担保しているのか、雷が落ちても大丈夫なのか、解説します。
飛行機に雷は落ちる?それでも大丈夫?
飛行機に雷は落ちます。
しかしそれでも雷で墜落することはまずありません。
それは何故でしょうか?
飛行機の構造
飛行機は雷の力を受け入れないようにできています。
飛行機は主に表面がアルミニウムで覆われており、アルミニウムは導電性という、電気を流す性質があります。
その為落雷した場合、飛行機に雷のエネルギーは機体に溜まらずに、アルミニウムの性質から、飛行機の表面を電気が流れていきます。
イメージとしては理科の実験の電気回路のビニール導線の役割を飛行機が果たしています。
ビニール導線のように、飛行機は電気を一瞬で受け流します。
そしてその流れた電気は、スタティックディスチャージャーという、翼や尾翼にある30個ほどの突起から空中に放電されます。
ただし、50年以上前にパンアメリカン航空214便墜落事故では、気化した燃料に雷が着火して墜落したことがあり、1967年にも同様の事故が発生しています。
しかし、この事故をきっかけに構造が見直され、気化した燃料に着火することは無くなりました。
以来、50年以上落雷による墜落事故は発生していません。
なお飛行機事故全般の確率については、こちらで解説しています。
パイロットの対策
パイロットは雷を発生する雲を認識したら、回避します。
雷は、通常多くは積乱雲から発生します。
積乱雲は雷だけではなく、とんでもない揺れや、雹(ひょう)や、ダウンバーストという非常に強い下降気流や、氷の付着など・・・、挙げればキリがないほど危険な雲です。
現在は飛行機に搭載された気象レーダーは非常に進歩しており、積乱雲は真っ赤に映る為、雷を生み出す積乱雲を見分けることは容易です。
その為、パイロットは雷のほとんどを回避しており、飛行機が雷に近づくこと自体、まず稀です。
ただし、レアケースにはなりますが、冬の雪雲から発生する一発雷や、積乱雲ほどは発達していない雲から発生する雷もあります。
このような雲は飛行機のレーダーでは危険度の判定が困難で、主にこのような場合に雷に当たっています。
<吹き出し>雷のポテンシャルがあるとコックピットでは、通信機器からノイズがあったり、セントエルモの火と呼ばれる線香花火の火のようなものがコックピットの窓に出たりします。
飛行機に雷が落ちたときの影響は?
ここまで飛行機に雷が落ちても、飛行機の飛行に影響はまずないことをお伝えしました。
では、雷は全く影響がないのでしょうか?
乗客への影響
飛行機の構造で説明した通り、飛行機はビニール導線のように電気を受け流す為、乗客が感電することは絶対にあり得ませんし、過去の事例でもありません。
ただし非常に激しく雷が落ちた場合、大きな音と振動、光などから客席でも落雷に気付き、動揺するでしょう。
そのような状況では雲中飛行が続き強い揺れが続いてきた可能性が高く、その状況からの落雷ですから、動揺する気持ちもすごくわかります。
ですが、先に述べたように雷が落ちたことによる墜落は50年以上発生していません。
ましてや、お客様が感電した事例は過去の歴史の中で旅客機においては全く存在しません。
雷で翼が取れていたら大変なことですが・・・、そんなことはまずありません。
お客様への影響は、雷が落ちてもまずあり得ないと思っていただいて大丈夫です。
動揺せず「あ〜、雷落ちたな〜。」くらいで思ってください。
運航への影響
落雷があった場合、その飛行機を使用する後続便の遅延や欠航が発生する恐れがあります。
何故なら、雷が落ちた部分に対して落雷を受けた場所、および雷が抜けた場所を整備する整備作業が必要になります。
安全には支障がないものの、少しの凹みや焦げ付きも放置できないのが飛行機の整備です。
また、一定の大きさの凹みや焦げ付きの場合には点検時間を多く要したり、部品の交換が必要なこともあるかもしれません。
コックピットへの影響
本当にレアケースになりますが、電気系統への影響が出る可能性はあります。
自動操縦装置や、各操縦を管理するコンピューター、エンジンを管理するコンピューターなどにもしかしたら影響があるかもしれません。
しかし現在の飛行機はこれらの装置が全て故障しても飛行できるよう、設計されています。
最悪全ての電力を失っても、飛行機を無事着陸させることは可能です。
ただしそのような事例を私は聞いたことがありません。
全ての電力を失う訓練は日本の機長昇格では盛んです。
しかし外国では、もはやあり得ない事例として、パイロットに恐怖感やトラウマを植え付けないようにこのような訓練は行わないという方針に変わってきています。
日本の訓練を否定するわけではありませんが、それくらい世界的にも発生していないということです。
なんで飛行機に雷が落ちるの?
こちらに関しては非常に専門的な知識が必要ですが、わかりやすく解説します。
雷は空と地上の電気の圧力を保つために、発生します。
積乱雲の中では上昇気流、下降気流が強く、また氷の塊も多く存在するため、気流に煽られた氷塊が静電気を多く作り出し、電気の圧力が高い状態となっています。
その結果、地上と上空の電気の圧力に差が生まれ、上空の電気を放電することで上空と地上の電気の圧力の差を減らそうとする力が生まれます。
その間を飛行する飛行機は、静電気を多く帯びており、かつアルミニウムという導電性の高い物質を使用していることから、雷が落ちやすい性質があります。
つまり、電気の圧力の差を直そうとしているところに飛行機が通りかかってしまい、結果飛行機に雷が落ちてしまう、ということになってしまいます。
雷からしたら、ちょっと飛行機も通ってこ!くらいのつもりなんでしょうね。
飛行機に雷が落ちたら大丈夫?まとめ
飛行機に雷が落ちた時の影響と安全性について解説しました。
- 飛行機は雷が落ちても問題ない設計となっている。
- 雷が落ちて墜落した事例は過去50年以上存在しない。
- 電気系統への影響はあるかもしれないが、電気系統を失っても着陸できる。
しかし航空業界は安全を最優先とし、しっかりと全ての事象に対して過去の事例を教訓として安全性を高めています。
構造やパイロットの操縦によって、飛行機に雷が落ちた場合の安全性は現在は担保されています。