エアラインパイロットが機長になるまで、様々な条件をクリアして長い道のりを歩むことは皆さんご存知かも知れません。
しっかりとした機長昇格訓練は、現在の航空輸送の安全に大きく寄与している事は言うまでもありません。
この記事では現役機長の空おじが、ほとんどのパイロットが通るであろう知られざる機長になるまでの条件と道のりを、わかりやすく具体的にご紹介します。
機長になるためには
機長になる為には、必要とされる最低限の年齢や経験を満足する必要があります。
そして、それらを満足した上で機長昇格訓練にチャレンジします。
機長昇格訓練では、数年の機長OJTと定期運送用操縦士の国家試験と、認定の審査を通過し、更には社内の審査に合格して、ようやく晴れて機長としてデビューすることが出来ます。
パイロットが機長になるまで
長い期間をかけて、機長になるための素質が国や会社の求める条件を満足しているかなどをしっかりと確認されます。
航空会社によってそのプログラムは異なってくるのですが、代表的な例をご紹介します。
副操縦士から国家試験まで
パイロットのキャリアは、飛行する飛行機の資格を取得した後に副操縦士としてスタートします。
副操縦士としての乗務中、日々のフライトにより飛行時間を段々と蓄積し、社内で定められた最低限の飛行時間を貯めていきます。
またその際に、航空会社によっては副操縦士を段階分けしており、社内の審査に合格することで副操縦士としての段階を上げることができます。
機長訓練を受けるにあたって必要な時間を貯め、かつ副操縦士としての最終段階に到達することで、次のステップの機長のための国家試験を受けることができます。
国家試験その1
副操縦士としての最後の段階で社内の審査に合格すると、晴れて一つ目の国家資格、定期運送用操縦士を取得する為の訓練を行うことになります。
この訓練はシミュレータを使用するのですが、通常数週間で終了します。
副操縦士の経験で培った、緊急事態の対応や操縦能力などをしっかりと訓練し、最後に航空局の試験官と試験を行い、合格した場合に一つ目の資格を獲得することとなります。
この試験に合格すると、機長席に座っての訓練、OJTを開始します。
機長OJT
お客様を乗せた通常運航便で、機長席である左席に着席し、右席に教官が座りながら機長としての訓練をする事を、機長OJTと言います。
ここでは実際の運航で起こる要素に機長としてチームワークを発揮しながら、しっかりと安全運航を確保できるかの訓練を行います。
定期的に見極めが行われ、進捗が思わしくないとOJTで訓練が止まることもよくあります。
その為OJTは毎日が勝負です。
このOJTは通常3年ほど行います。
なお近年では副操縦士の段階分けの見極めを厳しくして、OJTは一年もかからず終わらせる会社も少なくありません。
これが大手航空会社とそれ以外の機長昇格にかかる時間に差を生んでいます。
国家試験その2
無事OJTと幾多にも渡る見極めを乗り越えると、最後の試験があります。
正確には免許が与えられる試験とは異なり審査と呼びますが、認定審査という審査を受けます。
この認定は、大型機を操縦する上で機長として必要な知識及び能力を確認する航空法に基づく審査です。
これは、日本独自の制度であり海外で機長として飛行する場合は不要です。
航空局の審査官、または社内の査察操縦士が審査を実施します。
これに合格することで、日本のエアラインで機長として乗務する為の、全ての国が求める要件を得たことになります。
社内審査
国が求める要件を得たものの、最後に社内で機長として飛行していいという事を認められなければなりません。
その為に社内審査の最終審査を受けます。
これに合格して晴れて、所属する会社で左席において機長として乗務する全ての要件を揃えることができます。
必要な飛行時間は
飛行時間には、国として定める要件、そして会社として定める要件の2種類があります。
国としての要件は最低1500時間以上の飛行時間が求められています。
会社としては、会社の規定によりますが4000時間から5000時間以上を求める会社が多いです。
疲労管理の観点から、一年ごとに1000時間しか飛行することができません。
実際は毎年800時間くらいの飛行となる為、4000時間の要件を満たすだけでも5年かかることが分かります。
飛行時間の平均としては、8000時間くらいで機長になる人が日本では多いです。
必要な年齢は?
こちらも国と会社、それぞれの要件があります。
国は満21歳以上、会社は25歳以上を定めている会社が多いようです。
年齢に関しては25歳でエアラインの機長になることはまずありませんし、飛行時間が実質的に機長になるための制限となります。
機長になれる確率は
副操縦士として飛行している人の8割は、最終的に機長になります。
国家試験の合格率は、定期運送用操縦士も認定も9割程度は合格します。
ただし、社内の審査において全てを一回で通過する人は半分もいないと考えます。
厳しい会社では、半分どころか全ての社内審査をスムーズに合格する可能性が1割程度の場合もあります。
なお、社内の審査の合格率が高い会社は、国家試験の合格率が若干下がる傾向にあります。
機長の素質
航空法や国家試験の通達には様々なことが書いてありますが、結局漠然としている印象があります。
しかし、どんな状況下でも他の人と協力して仕事ができること、なのではないのかと私は考えています。
当たり前の事ですが、飛行機は常に空を移動しており時間に追われ、その中で予期せぬことも沢山起きるものです。
その対処が複雑な場合も沢山あるため、どうしても協力という観点に頭が働く事ができなくなる場合があります。
これは機長昇格の観点で初めて見られる、機長としての適性の要素の1つです。
機長になるまで何年かかる?
機長になるまでは、大手航空会社では少なくとも10年、それ以外の航空会社では少なくとも5年はかかります。
これは、機長になるための最低限の経験を会社が定めていることが理由として挙げられます。
さらに機長になりたい人が沢山いる場合には順番待ちをしなければならないことから、年数は更にかかることが殆どです。
平均としては、最低年数+8年くらいはかかると言ってもいいかもしれません。
コロナ下では順番待ちが多く発生し、副操縦士になったばかりの人たちは機長になるためには20年かかる、とも言われていました。
その為、機長になるための年数は運の要素もかなり大きいと言えます。
中には20年以上かけて機長になる人もいます。
その人の能力の問題ではなく、景気や会社の都合で不遇な思いをした人達が多数です。
また、そもそも機長昇格に興味がない人も結構います。
機長の年収
日本のジェット機の機長は2000万から3000万です。
会社や機長経験、1ヶ月の飛行時間によって、給料は前後します。
また、それ以外の機長は1300万から1億までと非常に幅があります。
プロペラ機で短距離路線を飛行するような場合は年収が低めとなり、アメリカの大手航空会社やチャーター機のお抱えパイロットになる場合は年収は非常に高くなります。
機長になるまで:まとめ
沢山の審査と試験が、機長になるまでの道のりにある事をご紹介しました。
- 機長になるためには最低でも5年から10年以上かかる。
- 必要な国の要件は、定期運送用操縦士と機長認定。
- 社内審査は副操縦士の段階から、機長OJTまで複数回受けなければならない。
エアラインにおいては沢山のお客様を運ぶため、その責任も重く、国としても会社としても機長になるためには沢山の条件が求められます。
副操縦士において日々のフライトから一つでも学び、その学びを積み重ねて研究を重ねる事が求められます。