飛行機の操縦は、何も知らない人がいきなり座ってできるほど簡単ではありません。
一方パイロットには、操縦は決して選ばれた人しかできないほど難しいわけでもなく、自転車に乗れれば操縦はできるよ!
という意見の人もいます。
それでも飛行機の操縦には難しい要素があるのは確かです。
コックピットでの操縦の難しさに関わる知られざる世界を、現役機長の空おじがわかりやすく解説します。
飛行機の操縦が難しい時
現代の飛行機は基本的に自動操縦装置で飛行します。
しかし手動操縦装置での操縦もしなければならない時は様々な時で発生します。
その中のいくつかをご紹介します。
非常に強い横風の中での着陸
圧倒的に難しいのが非常に強い横風の中での着陸です。
何故なら、強い横風の中では滑走路に真っ直ぐ向かうのも、高さをコントロールするのも難しいからです。
また、このような風の中では自動操縦装置による着陸はできません。
揺れの原因を解説した記事でも説明しましたが、日本の多くの空港は風に伴い非常に激しい揺れが発生します。
年に数回は、客席から悲鳴が上がるような気流の中で着陸しなければなりません。
この揺れの中で、滑走路に対して横方向、縦方向共に0.1度単位でコースやパスを修正しながら飛行機を着陸させなければなりません。
0.1度なんて日常生活で意識することはまずないと思います。
通常滑走路に対しては3度の角度で降下していくのですが、これが2.9度になってしまっただけで修正が必要です。
それをどんな揺れの中でもこなさなければなりません。
この修正が緩慢だと、最悪の場合地上接近警報装置が作動したり、エンジンや飛行機の一部を滑走路に擦ったりしてしまいます。
または異常なハードランディングをしたり、着陸をバウンドしたりと・・・、潜在的に潜む危険は数知れません。
霧の中の着陸
霧の中の場合、パイロットは錯覚に陥りやすく、難しいと言えます。
多くの空港で自動操縦装置による着陸も可能ですが、手動で実施しなければならない空港も沢山あります。
そのような空港では、着陸する20秒前にようやく滑走路が見えてくるようなこともあります。
この20秒の間に外の世界に目の焦点を合わせつつ、着陸に備えるのですが、外がよく見えないと人間は自分が高いところにいる錯覚に陥ります。
更に夜の暗闇も同様の錯覚を生むため、夜の霧だと高さの感覚が全くわからなくなります。
霧の錯覚は少しでも油断していると、ドシーン!とした着陸になってしまいます。
危険な着陸では決してないのですが、明らかな失敗なので気分はがっかりです・・・。
ビジュアルアプローチ
通常は進入においてはILSやRNPなど、計器が適切なコースや高さを指示してくれる装置を使用して着陸します。
それとは別に日本の多くの空港では、進入するにあたりビジュアルアプローチと呼ばれる、外の景色からコース、高さなどを判断して進入する方式があります。
これは昔ながらの進入方式なのですが、障害物や他の航空機との衝突回避、雲の中に入らないことなど、多くの責任がパイロットのみが持つ事になる進入方式であることから、難しいです。
ILSやRNPでも勿論パイロットに責任があるのですが、その危険は基本的には管制官も共同で監視して回避してくれますが、ビジュアルアプローチではそうもいきません。
海外では、山に囲まれた空港は山を回避するようなコースを自動操縦装置が連れて行ってくれるRNPの進入方式が殆どで設定されていますが、日本ではまだ過渡期にあります。
そのため日本では山岳地帯の中、山に非常に気を遣いながらビジュアルアプローチをしなければならない機会が多々あります。
飛行機の操縦が難しい理由
飛行機の操縦は難しい一方、自転車さえ乗れれば飛行機は操縦できる、という話をご紹介しましたが、これは本当でもある一方、嘘でもあります。
飛行機の操縦は簡単だけど、難しいです。
その理由をご紹介します。
お客様を乗せている
飛行機を離陸させて、着陸させるだけなら5回練習すればできると思います。
ただしお客様を乗せている場合、それをリスクから常に遠いところで行わなければならず、その場合一気に難易度が上がります。
エアラインではFDMと呼ばれる、飛行機が不安定な飛行をしていないかを常にモニターするシステムがあります。
何十項目に渡ってモニターされており、そこにひっかからないようにパイロットは操縦する必要があります。
もしも著しく何かの項目に引っかかった場合、事例として社内に匿名で共有されます。
このFDMに一つも引っかからずに、つまりしっかりとリスクから離れて離陸させて着陸させる場合は、5回の練習では絶対に不可能です。
つまりリスクから離れ続ける操縦というのは、一朝一夕ではできません。
飛行機は常に動いている
飛行機は常に動いているため、路肩でちょっと一休み・・・、という訳にはいきません。
例え操縦が少し思うようにいかなくて、操縦が難しく思うようなコースを辿っていなくても、飛行機は待ってくれずにどんどん前に進んでいってしまいます。
つまり飛行機は待った!が効かない乗り物ですので、何か操縦がずれてしまった時には、そのずれを修正する事に集中するだけではなく、自分がどこまで進んだかを把握しなければ更なる操縦ミスを誘発してしまいます。
その結果より事態を悪化させてしまうということは、初期訓練や慣れない飛行機においては非常によくある事です。
よく言われるのが、「ビハインドになっている」という言葉です。
ビハインド(behind)とは、遅れているという意味であり、どんどん進む飛行機に対して思考が遅れている状態を言います。
飛行機が先に進めば進むほどやることが生まれてくるので、その時々に必要な措置をうまく処理できないと、どんどんやることが積み重なってビハインドになっていきます。
命がかかっている
特に離陸や着陸時などクリティカルイレブンミニッツと呼ばれる、事故が多い時間帯はお客様の命を預かりつつ、しっかりと自分の命をかけて実施する事になります。
つまりただ操作をするのではなく、何かが起こったときに素早く間違えずに対処をできるような準備をしながら実施しなければなりません。
離陸を例に挙げると、ゲームのように操作だけならばパワーのレバーを前に押して、操縦桿を引くだけです。
簡単ですよね?
ただし命がかかっていることを踏まえると、操作をしながら
- エンジンが壊れたら手順は・・・
- 滑走路に車はいないよな・・・
- 離陸中断する手順は・・・
- 離陸継続する手順は・・・
- 速度計大丈夫だよな・・・
- 急な風の変化があったら・・・
- 離陸してすぐ何か壊れたら・・・
ということを頭の中で想定する事になります。
一例では低速でエンジンが止まった場合には、すぐにパワーを絞らないと飛行機は真っ直ぐ進めず一発で横転してしまいますからね。
飛行機の操縦は難しい?難しさを感じる時とその理由!まとめ
飛行機を操縦することが難しい時と、その理由を解説しました。
- 飛行機は風や霧などの気象現象が厳しい時や、ビジュアルアプローチの操縦が難しい。
- 飛行機の操縦が難しい理由は、故障に備えなければならず、また故障の時にもリスクのない運航をしなければならないから。
色々な操縦の難しさをお伝えしましたが、そのような難しさとそれに対する対処をしっかりとパイロットは把握して、運航しています。
そのため非常に事故の確率は低いものとなっております為、ご利用の皆様には安心して空の旅を楽しんでいただければと思います。