飛行機が強く揺れた経験は、何度も飛行機に乗っている人ならば一度は記憶にあると思います。
飛行機って揺れるから乗りたくない・・・
と、感じている人もいるのではないでしょうか。
恐怖を感じる理由の一つは、飛行機が揺れる理由がイメージできないからだと思います。
現役で飛んでいる私にとって、揺れというのは日常茶飯事、体が浮くような揺れ、お客様から悲鳴が上がるような揺れも何度も経験しています。
そんな現役機長の空おじが、飛行機の揺れとその理由、そして安全に空の旅を楽しむポイントについて詳しく解説します。
飛行機が揺れる主な理由とは?
飛行機が揺れる原因は、主に台風や、地形の影響、雲の影響、風の変化の影響があります。
全てに共通するのは、大気中の空気が乱れているということです。
飛行機は大気中の空気の乱れを直接受けてしまうため、どうしても日によって揺れることは避けられません。
また、日本は四季があるため一年を通じて温度変化が激しく、外国に比べて非常に大気が乱れやすいです。
その中でも特に揺れやすい状況を解説します。
よくエアポケットという言い方をネットで見ますが、パイロットはエアポケットという用語はまず使用しません。
エアポケットというと、何だか落とし穴みたいでどこにあるかよくわかりませんよね。
台風の接近
皆様が飛行機に搭乗した時に一番揺れる可能性がある日は、台風が接近している日です。
沖縄付近に台風の中心があっても、大型の台風ならば本州で揺れることもあります。
台風は、雨雲だけではなく非常に広い範囲で大気中の風向きや風速も大きく変化させます。
ですので、台風が接近している中で飛行機に搭乗される場合は、飛行中ずっと揺れる事を覚悟していただかなければなりません。
特に台風の中心付近では、風の変化がメチャクチャです。
その為台風の中心付近で着陸する場合、かつて経験したことないような揺れもあるかもしれません。
飛行中の急な風の変化は風に乗って飛行する飛行機に対して、車でいう急加速、急減速と同じ状態を発生させます。
風向きの変化も、飛行機の進行方向に対して相対的な風の強さが変わるので、同様に揺れを発生させます。
山に囲まれた空港における強風
揺れの強さという意味では、山に囲まれた空港で風が強い日は着陸前、台風に負けず劣らずというくらい揺れます。
ただし着陸5-10分前から着陸までの短い期間です。
お客様が悲鳴をあげる揺れは、この地形の影響を受けた乱気流である場合が多いです。
風が強い日に山に囲まれた空港に行く場合、着陸前の強い揺れを覚悟していただかなければなりません。
風が山の方から吹いてきている日に、その風が山に当たると、波のようになって飛行機にぶつかります。
この波のような風はまるでサーフィンをするサーファーのように、飛行機を風という名の波に乗せてしまいます。
そうすると、ジェットコースターのように浮いたり、落とされたりを無限に繰り返す事になります。
また、あまり山がない空港でも、羽田空港の空港建物による揺れや、成田空港の谷をまたいでくる揺れも、同じ原理で非常に強く揺れます。
これも台風の風の変化による揺れの原理と同じです。
ただし波打っている分、飛行機を下から突き上げたり、上から突き落としたりする力が加わりより気分の悪い揺れ方になります。
雨雲や雪雲
雨雲に入る時は少なからず揺れます。
雨雲は広範囲に広がっている為、全て避けると日によっては永遠に避けることになりかねません。
その為、パイロットは少しでも揺れなそうな雲の隙間を探して飛行します。
その際には多少の揺れは我慢して頂くこともあります。
また、雨ではなく雪の雲はパイロットからすると更に硬い雲のイメージです。
雨雲と同様に、雪雲は広い範囲に広がっている為、避ける事ができません。
冬、雪の降る中の空港に着陸する場合、強く揺れる可能性があると思っていてください。
ただし、この揺れもかなり強い揺れではあるものの、雪雲の高さは低いため、5分もしないうちに揺れはおさまることがほとんどです。
雲の中では水分が気体になったり、水滴になったり氷になったりしています。
その際に熱の変化があり、その熱の変化が安定しない風を生み出します。
その為雲の中には上昇気流、下降気流が顕著で揺れやすくなります。
日本の冬で、上昇中及び降下中
国内の話ですが、日本の上空には非常に強いジェット気流が吹いています。
上昇中、降下中においてはこのジェット気流に出たり、入ったりしなければならないため、その高度帯では風が大きく変化し、揺れることが多いです。
冬の場合、この風の変化がない日の方が少ないくらいで、冬に飛行する場合はどこかしら揺れると思っていただいた方がいいと思います。
積乱雲
万が一入ったらとんでも無く揺れます。
勿論揺れもそうなのですが、雷や雹(ひょう)、氷の付着など飛行機にとって危ない要素の塊のようなものです。
そのようなものは、パイロットは絶対に避けますので、実際に強い積乱雲の揺れを体感することはないと思います。どうぞご安心下さい。
非常に強い上昇気流、下降気流の塊の雲です。
上に持ち上げられて、叩き落とされるような揺れになりますので、揺れる理屈は簡単です。
飛行機の揺れは危険?
揺れで飛行機が壊れることはまずありません。
飛行機は設計段階で非常に厳しい揺れに耐えるための基準があります。
その基準の揺れは、まず皆様が体感したことないもので、体が宙に浮いて天井にぶつかったり、かなり激しいジェットコースターレベルのものです。
一度、夜中に熱帯地方のとある国の積乱雲の子供のようなものに突入しました。
尋常じゃない揺れで、歩いたら大人も吹っ飛ぶ程でした。
が、飛行機に異常は何もありません。
安全な空の旅の為に
揺れで飛行機が壊れることはまずない、という事をお伝えしましたが、お客様が揺れで転倒するなどして、怪我をする事は非常に頻繁にあります。
私達は気象状態を把握して、必要な時にはシートベルトサインを点灯します。
シートベルトサインが点灯する時は、ベルトをしてもらわないと怪我をすると機長が判断した時です。
その為トイレなどから戻って、速やかに腰の低い位置でベルトを閉めてください。
ベルト着用サインが点灯した後、非常に強く揺れてもしも恐怖を感じたら
- 音楽でも聴いて気を紛らわせる
- スリリングな体験をあえて楽しむ
という気持ちを切り替えること。
そして何よりも•••
- 飛行機は揺れても絶対に壊れないという空おじ機長の言葉を思い出す
ことがおすすめです。
揺れにくい席と揺れやすい席は?
翼の上付近の座席が最も揺れない席になります。
揺れやすい席は一番後ろの席です。
飛行機は翼の上に起点があり、そこを中心にシーソーのように動きます。
特に地形の影響を受けた風の中着陸するときは顕著です。
そのため、一番後ろの席と翼の上の席の揺れ方は全く違います。
少しでも揺れたくないのならば、翼の上の席を早めに確保することを強くお勧めします。
逆にスリリングな思いをしたければ、台風の日に一番後ろに乗ってみるのもいいかもしれません。
飛行機が揺れた時のクルーの対応
飛行機が予期せぬ揺れに遭遇した場合、パイロットおよび客室乗務員は様々な対応を取ります。
その例をご紹介します。
パイロット
速やかにシートベルトサインを点灯し、揺れないと思われるエリアや高度に向かって飛行します。
必要に応じてアナウンスをしますが、揺れないエリアに向かうことを最も優先します。
更に最も気にするのが、シートベルトサインを点灯してから、全員のお客様が着席するまでの間です。
その瞬間トイレに行っている方も多いと思います。
怪我をされていないか、揺れが強いほどドキドキしてます。
客室乗務員
サービス中の場合は速やかにカートを片付けて、お客様のベルトを確認して速やかに自らも着席します。
カートが倒れてしまうと、乗っている熱い飲み物がお客さんにかかったり、カートがお客さんにぶつかってしまうと大怪我になることもあります。
また揺れが強い場合、客室乗務員も皆様が早く座ってくれるようドキドキしているでしょう。
飛行機の揺れる理由 まとめ
飛行機が揺れる主な理由は、風や気象条件によるのものです。
- 台風や地形の影響の揺れはとにかく揺れる。
- 揺れても飛行機が壊れることはまずない。
- 揺れが怖ければ翼付近の席がおすすめ。
以上にまとめたような知識を持つことで漠然とした揺れへの恐怖を和らげることができます。
飛行機が揺れる理由を知り、安全な飛行機で空の旅を楽しんで頂ければと思います。